2012年10月10日水曜日

結局高くて良いものは売れるのか売れないのか(その1)・・・老舗繊維メーカーの廃業に考える

本日(2012年10月10日)付けの日経ビジネスオンラインに

「いい物を作れば生き残る」のウソ
ある優良繊維メーカーの破綻

という記事があった。(*1)

詳しくは、そちらの記事を読んで欲しいのだが、つまるところ、東京都八王子市の織物メーカー、みやしんが廃業を決めたということだ。

この「みやしん」という会社は、他の業界の例えば部品メーカーや素材メーカーと同様、一般には知名度があるわけではない。しかし、この業界では高品質のモノづくりを行い、高名なデザイナーに対しても生地の提供を行い、また過去にはテキスタイルネットワーク展を呼びかけ軌道にのせ、情報発信力があったにも関わらず、廃業に追い込まれたからだ。

だからこそ、普通なら従業員9名程度の繊維メーカーにも関わらずこの廃業がニュースになったということのようだ。

この企業はバブル崩壊後、90年代後半のピークの売上の約1億5000万円から徐々に減っていき、昨年は赤字。

徐々に、「高くて良いもの」は売れなくなったいったようだ。そして、取引先からの「1メートルあたり2000円」の生地は使えない、ということが廃業への決断につながったというのだ。

さて、これは何らかのモノを作る業界では、どこでも起きていることなのではないだろうか。



この記事の総括としては、
1)モノづくりと同様に(ひょっとしたらそれ以上に?)販促に力を入れてブランディングをはかる
2)安価な大量生産品向けにシフトするのか
ということと、私は理解した。

実際、繊維業界では何らかの形で、上記のような形で対応しているようだ。
この記事の中では、いい物を作れば生き残る、ということは嘘だ、ということを八王子の染色工場、奥田染工場の奥田博伸社長がブログ(*2)の引用とともに、述べている。

***

これを工業製品に置き換えてみれば、

1)他の会社には真似のできない技術を売りにする
2)圧倒的なボリュームとスピード感で勝負する

と言い換えられそうだ。

1)に関しては、同じようにブランディングが必要そうだ。技術はいつか真似されるしコモディティ化もする。常に最先端を走ると同時に、知名度をあげ、ブランディングをはからない限りは、長期間にわたってこの地位を確保するのは難しそうだ。

2)に関して言えば、ある程度規模も大きくしていかないといけない。スピード感をもって、大規模な投資をリスクをとって一気に行う必要がある。これはこれで難易度が高い。

いずれにしても、繊維業界でも他の工業製品でも、大きくデフレが進み、一部の高級ブランド品でもなければ最終製品の価格は安い。したがって部品や素材も安いものが求められている。

これはつまり、上手にブランディングができないと、高度な技術を持っていてもどこかで行き詰ってしまう可能性が常にあるということかもしれない。

何だか話が暗くなってきたが、実は必ずしもこの袋小路に陥る必要もないと思う。

***

部品メーカーや素材メーカーの直接の取引先は、最終製品のメーカーだ。(ここでは話しを単純化して、多重の下請けのレイヤーは考えていない)つまり、取引きとしてはB2Bだ。

このようなB2Bの企業は、B2Cを行う最終製品のメーカーに常に動向を左右され、ある意味で命運を握られることになる。

昨今の中小製造業が、最終製品をオリジナルブランドで作って販売するのも、一つは自社の持つ技術をわかりやすい形でアピールするとともに、やはり、今までのように最終製品メーカーに(つまり元請けに)運命を握られたままではいない、という思いの現れでもあるのではないだろうか。

B2B企業の弱みとも言えるのは最終ユーザーに対して直接影響力を行使できない、ということだ。言い換えると、自分たちも直接エンドユーザに働きかけることができれば、状況を変えられるかもしれない、ということだ。だから、自分たちでも最終製品を作ってみようという思いも出てきて不思議ではない。

もちろん、これ自体は良いことだと思うし、今まで接したことのないエンドユーザに接することで、色々な意味で自分たちのモノづくりのあり方を見直すことにもつながる。何よりも、今まで元請けからの注文を待ち受けていたスタンスから、自主的に動くスタンスになる。これは何よりも大きな成果であるはずだ。

だからといって、このようなすべての企業が完全にメーカーになるわけにはいかない。また本格的に業態転換をはかるのでも無い限り、やはりメーカー稼業は「従」であり、本業であるこれまでのサプライヤーとしての仕事で稼がなくてはならない、つまりこれだけでは問題の本質は変わらない。

やはり、本質的なところで手を打たないと、利益は出ないし、どこかで袋小路に陥ってしまう可能性がある。

***

さて、話が出発点に戻ってしまったが、ここからなにかできるのだろうか?
サプライヤーであるB2Bの企業がエンドユーザに対して影響力を行使できるのだろうか。

逆に言うと、これが出来ないとサプライヤーとしてはつらい。最終製品メーカーとエンドユーザーの間でのやり取りは、高級ブランド品か大量生産の廉価品だ。

さて、この責任を一方的にエンドユーザーに帰することができるのだろうか?
それは違うと思う。多分に最終製品メーカーからの働きかけもあり、それに対してエンドユーザーが応えたからだと思う。

であれば、ブランドに関わらず本来的な価値のものを提供し、それに対してエンドユーザーがしかるべき対価を払うということも、サプライヤーのB2B企業が出来れば、状況は変わりそうだ。

で、本当にB2B企業がそんな働きかけができるのだろうか。

少なくともヒントになりそうなものはありそうだ。
例えば、ガムで一躍有名になった「キシリトール」だ。
そこで、行われたのはB2B2C。

これがどのようにヒントになるのか。
私なりに次回のブログで考えてみたい。

(1)http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121008/237788/
(2)http://blog.okudaprint.com/2012-09/miyashin

次回に続く



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